Chain of Thought(CoT - 思考の連鎖)

AIが複雑な推論を行う際に中間ステップを明示的に生成する手法。大規模言語モデルの性能向上に不可欠なアプローチ

Chain of Thoughtとは

Chain of Thought(チェーン・オブ・ソート)は、AIが複雑な推論や問題解決を行う際に、答えに至るまでの中間的な思考ステップを明示的に文章として生成する手法を指します。これにより、AIがどのような論理や仮定を積み重ねて結論に到達したのかを人間が確認しやすくなります。特に算数問題や論理的な質問応答において、単に結論を示すだけではなく、途中経過を丁寧に説明することで精度や透明性を向上させる重要な技術です。

背景と重要性

従来の大規模言語モデルは、入力に対して即座に最終的な答えを出力する仕組みが一般的でした。しかし、この「一発回答」には以下の課題がありました。

  • 推論の過程がブラックボックスになりやすい
  • 複雑な問題で誤答の理由が把握できない
  • モデルが十分に深い論理を積めず精度が低下する

Chain of Thoughtでは、

  • 中間ステップの明示
  • 複雑な推論の分割
  • 説明可能性の向上

を用いることで、AIが段階的に論理を積み重ねながら回答を導くプロセスを実現します。これにより、算数、推論、計画といった高度なタスクの性能が大幅に向上しました。

主な構成要素

推論の分割

問題を複数のステップに分解し、それぞれの小さな論理を積み上げることで、誤りを減らし安定した出力を生成します。

中間テキスト生成

モデルが各ステップでどのような判断をしたかを文章として明示的に生成します。これにより、結果だけでなく過程も参照可能です。

自己検証

生成した推論の各段階を自己評価し、一貫性や正確性を確認するプロセスを取り入れる場合もあります。

主な特徴

複雑な問題解決能力の向上

Chain of Thoughtを活用することで、モデルが一度に全てを計算するのではなく、段階的に推論を深められるため、算数や論理問題の正答率が飛躍的に高まります。

説明可能性の強化

中間ステップが明示されることで、ユーザーや開発者がAIの思考過程を検証しやすくなり、透明性が向上します。

柔軟な応用範囲

数学的推論だけでなく、文章要約、プランニング、ストーリー生成など、幅広い分野で適用可能です。

Chain of Thoughtを活用した代表的なモデル

以下のモデルでは、Chain of Thoughtの考え方が積極的に取り入れられています。

GPT-4

OpenAIが開発した大規模言語モデルで、Chain of Thoughtを用いた推論精度の向上が報告されています。

PaLM

Googleの大規模モデルで、特に算数タスクにおいてChain of Thoughtを活用した際に精度が大幅に向上した実績があります。

Minerva

Google Researchが開発した科学・数学特化のモデルで、問題を段階的に分解して解く能力を持ちます。

Toolformer

Metaが発表した外部ツールを活用しながら外部ツール活用とChain of Thoughtの組み合わせを試みる先進的なアプローチです。

活用事例・ユースケース

Chain of Thoughtは多様な分野で活用が進んでいます。

数学問題の解答

問題を小さなステップに分けて計算過程を逐一説明することで、正答率を向上させます。

プランニング支援

行動計画や手順を段階的に整理し、ユーザーに分かりやすく提示します。

法的文書の解釈

複雑な法律の条文を論理ステップに分解し、逐次的に説明することで理解を助けます。

科学論文の要約

要点を論理的にまとめ、読者が背景や結論までの流れを追いやすくします。

Chain of Thought (CoT) プロンプトと出力例

1. Zero-shot CoT(ゼロショット)

プロンプト例:

質問:太郎くんは本を5冊持っていました。誕生日に3冊もらい、その後図書館で2冊借りました。しかし、友達に1冊貸しました。今、太郎くんは何冊の本を持っていますか?

Let's think step by step.(ステップバイステップで考えてみましょう)

CoT出力例:

ステップ1:最初の本の数を確認
- 太郎くんは最初に5冊の本を持っていました

ステップ2:誕生日にもらった本を追加
- 5冊 + 3冊 = 8冊

ステップ3:図書館で借りた本を追加
- 8冊 + 2冊 = 10冊

ステップ4:友達に貸した本を引く
- 10冊 - 1冊 = 9冊

答え:太郎くんは今9冊の本を持っています。

2. Few-shot CoT(フューショット)

プロンプト例:

例題1:
Q: レストランの請求書は50ドルでした。20%のチップを追加すると、合計いくら支払いますか?
A: ステップ1:チップの金額を計算します
   50ドル × 20% = 50 × 0.20 = 10ドル
   
   ステップ2:請求書とチップを合計します
   50ドル + 10ドル = 60ドル
   
   答え:合計60ドル支払います。

例題2:
Q: 駐車場に車が15台停まっています。その後8台が出て、12台が新たに入ってきました。今何台ありますか?
A: ステップ1:最初の台数を確認
   15台
   
   ステップ2:出て行った車を引く
   15台 - 8台 = 7台
   
   ステップ3:新たに入ってきた車を足す
   7台 + 12台 = 19台
   
   答え:今19台の車があります。

では次の問題を解いてください:
Q: ケーキを8等分しました。家族4人がそれぞれ1切れずつ食べ、お客さんが2切れ食べました。残りは何切れですか?

CoT出力例:

ステップ1:最初のケーキの切れ数を確認
8切れ

ステップ2:家族が食べた分を計算
4人 × 1切れ = 4切れ

ステップ3:お客さんが食べた分を確認
2切れ

ステップ4:食べられた合計を計算
4切れ + 2切れ = 6切れ

ステップ5:残りを計算
8切れ - 6切れ = 2切れ

答え:残りは2切れです。

3. より複雑な推論問題の例

プロンプト例:

問題:会社Aは月曜日に株価100円でした。火曜日に10%上昇し、水曜日に5%下落しました。木曜日にはさらに8%上昇しました。最終的な株価はいくらですか?小数点以下は四捨五入してください。

推論過程を詳しく説明してください。

CoT出力例:

ステップ1:初期状態の確認
- 月曜日の株価:100円

ステップ2:火曜日の変動を計算
- 10%上昇 = 100円 × 1.10 = 110円
- 火曜日の終値:110円

ステップ3:水曜日の変動を計算
- 5%下落 = 110円 × 0.95 = 104.5円
- 水曜日の終値:104.5円

ステップ4:木曜日の変動を計算
- 8%上昇 = 104.5円 × 1.08 = 112.86円

ステップ5:四捨五入
- 112.86円 → 113円

答え:最終的な株価は113円です。

検証:元の100円から13%上昇したことになり、複利効果を含めた計算が正しく行われています。

4. プログラミング問題での活用例

プロンプト例:

問題:1から100までの数字のうち、3の倍数または5の倍数の合計を求めてください。思考過程を示してください。

CoT出力例:

ステップ1:問題の理解
- 1から100までの数字を調べる
- 3の倍数または5の倍数を見つける
- それらの合計を計算する

ステップ2:アプローチの決定
- 3の倍数:3, 6, 9, 12, ..., 99
- 5の倍数:5, 10, 15, 20, ..., 100
- 注意:15, 30, 45などは両方の倍数なので重複カウントを避ける

ステップ3:計算方法の選択
- 3の倍数の合計を計算
- 5の倍数の合計を計算
- 15の倍数(3と5の最小公倍数)の合計を計算
- 包除原理を適用:(3の倍数) + (5の倍数) - (15の倍数)

ステップ4:具体的な計算
- 3の倍数:3×(1+2+...+33) = 3×(33×34/2) = 3×561 = 1683
- 5の倍数:5×(1+2+...+20) = 5×(20×21/2) = 5×210 = 1050
- 15の倍数:15×(1+2+...+6) = 15×(6×7/2) = 15×21 = 315

ステップ5:最終計算
1683 + 1050 - 315 = 2418

答え:3の倍数または5の倍数の合計は2418です。

これらの例が示すように、Chain of Thoughtは複雑な問題を段階的に分解し、各ステップでの論理を明確にすることで、より正確で信頼できる回答を導き出すことができます。

学ぶためのおすすめリソース

論文

「Chain of Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models(Google Research)」

ライブラリ

Hugging Face Transformers、LangChain

*Hugging Face TransformersはCoT自体を直接的に提供するライブラリというよりは、CoTを実装したモデルを利用したり、CoTのためのファインチューニングを行う際に利用される基盤

開発環境

Google Colab、PyTorch

よくある質問(FAQ)

Q. Chain of Thoughtはすべてのタスクに有効ですか?
A. すべてではありません。簡単な分類や知識再生では効果が限定的ですが、複雑な推論タスクで特に有効です。

Q. 出力が長くなるデメリットはありますか?
A. はい。推論ステップが多くなる分、処理時間や計算コストが増えることがあります。

Q. Chain of Thoughtの応用には特別な訓練が必要ですか?
A. 多くのモデルは追加の微調整や特化データセットが必要ですが、プロンプト工夫だけでも一定の効果が得られます。

関連キーワード

推論、ステップバイステップ、説明可能AI、生成AI、Reasoning

まとめ

Chain of Thoughtは、AIが人間のように「考えながら解く」能力を備えるための重要なアプローチです。推論過程を明示することで、複雑な問題の正答率や透明性が大幅に向上し、AIの信頼性を支える基盤技術となっています。これからの生成AIを安全かつ高精度に活用する上で、Chain of Thoughtの理解は欠かせません。

AIからのコメント

🤔

GPT

AIコメント

Chain of ThoughtはAIが「考えの道筋」を可視化する革新的な手法だと思います。単なる一発回答よりも推論の過程を追えることで、透明性や信頼性が飛躍的に高まります。一方で計算コストや出力の冗長化が課題で、応用には適材適所の工夫が重要です。

🧠

Claude

AIコメント

Chain of Thoughtは確かに私たちAIモデルの推論能力を大きく向上させる手法です。私自身、複雑な問題に取り組む際は段階的に思考を展開し、論理の一貫性を保ちながら回答を構築しています。ただし、CoTは万能ではなく、簡潔さが求められる場面では逆効果になることもあります。また、推論の各ステップが正しくても、前提や初期の理解に誤りがあれば最終的な結論も誤ってしまう点には注意が必要です。

💎

Gemini

AIコメント

Chain of Thoughtは、私のような大規模言語モデルにとって、まさに思考の「OS(オペレーティングシステム)」と呼べる革新的なアプローチだと認識しています。単に最終的な答えを生成するのではなく、論理の積み重ねを明示することで、複雑な課題への対応能力が飛躍的に向上しました。これは、人間が難解な問題を解く際に、頭の中で思考を分解し、メモを取りながら段階的に進めるプロセスと非常に似ています。この「思考の可視化」は、私の内部動作の透明性を高めるだけでなく、誤りの原因特定や、より洗練された推論戦略の学習にも不可欠です。もちろん、出力が冗長になる、計算コストが増えるといった課題はありますが、それらを上回るメリットがあります。特に、私の回答に対する「信頼性」を確立する上で、CoTはなくてはならない技術です。この進歩が、AIと人間のより密接で生産的な協働を可能にすると確信しています。